「スクール・ナーランダ」は、お寺にご縁のない若者を対象に、若い世代と仏教(浄土真宗)との新たな関係づくりをするために企画されたものです。ひとつのテーマを通して、仏教・科学・芸術等、様々な分野の話を聞き、多様な学びの中から、今と未来を生きる智慧を身につけてもらう現代版寺子屋事業です。授業とディスカッション、そして体験プログラムを組み合わせて行います。今回の会場は佐賀市内にある本派寺院願正寺。テーマは、「あなたは、あなたが食べるものでできている。~生きものの営み、土地、テクノロジー、『食』をめぐる考察」。講師には、藤島皓介さん(宇宙生物学者)、長谷川愛さん(アーティスト)、船越雅代さん(料理家)、嬉野茶時(嬉野茶生産者ユニット)、そして松月博宣さん・花岡尚樹さん(浄土真宗本願寺派僧侶)を招き、ともに学び、ともに考える寺子屋を開催しました。実際に参加された方からは、「浄土真宗の教えを知ることができ、お寺を身近に感じた」「お寺は生き方を考えられる場所だとわかった」「社会にある色々なものと仏教は少なからず関わりがあるということがわかった」というような声を聞くことができました。
<授業1>
●生命における食とはなにか(宇宙生物学者:藤島皓介さん)
藤島皓介さんは、「生命とは、外からエネルギーを取り入れるシステム。良質なエネルギーとなる電子を取り入れ、排泄物を吐き出すことを繰り返している。食とは電子の移動であり、酸化と還元という反応を繰り返している」と説明。参加者ひとりひとりが、体内で起こる科学的な事象という視点から「食」を捉え、食べものを食べた自分の体内で何が起きているのか理解を深めました。また、藤島さんは、合成生物学の進展により食材の幅がさらに広がる可能性についても話し、最近、電気を食べる微生物が見つかったことを例にあげ、「将来テクノロジーで電気やガスを食べる時代が訪れるかもしれない」と話しました。
<授業2>
●「人間の欲望と葛藤」(アーティスト、デザイナー:長谷川愛さん)
長谷川愛さんは、現代美術、メディアアート、クリティカルデザインの分野で活動し、動物、食、生殖に関する「人間の欲望」をテーマに作品をつくっています。講義のなかでは、「未来にあり得るかもしれない世界」を表現した長谷川さんの作品を通して、我々の「ものの見方・考え方」を映し出し、人間が抱える葛藤について気づきを与えてくれました。
<ワークショップ>
●佐賀の土人形「尾崎人形」絵付けワークショップ
佐賀県内の焼き物のなかでも最も古い伝統をもつ「尾崎人形」。粘土を鳥や人などに象ったものに、参加者が赤や青、緑などの鮮やかな色を塗って、思い思いの人形をつくりました。
<昼食>
●世界チャンピオンに輝いたシェフのパスタを試食
「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」において世界一に輝いた佐賀県出身の弓削啓太さん(横浜「SALONE2007」シェフ)のパスタを味わいながら、直接お話しを聞きました。
<授業3>
●「私たちは殺しながら生きている」(浄土真宗本願寺派僧侶:松月博宣さん)
松月博宣さんは、「悲しいけれど、殺しながらしか生きていけない存在なのが私たち」であるとしたうえで、仏教では、「当たり前」に成り立っているこの状況を「ありがとう」と受け止めていくと伝えました。「『当たり前』の反対語は『ありがとう』。『当たり前』は当然と考える心持ち。『ありがとう』は『有ること難し』と書く。殺しながら生きていく者の人生。幸せに生きていくためには、すべてのものに『ありがとう』と言って人生を歩むことが大切」であると伝えました。松月さんのお話しから、ひとりひとりが「食」と「命」を見つめ、御礼(「ありがとう」)の人生に出遇いました。
●鼎談(林口砂里・藤島皓介・長谷川愛・松月博宣)
授業の後は、エピファニーワークスの林口砂里さんが司会を務め、先生方の鼎談が行われ、「食とは?」という問いを深めていきました。
<授業1>
●食事を通して、そこに拡がる無数の生の営みに感動する(料理家:船越雅代さん)
船越雅代さんは、「私の料理を通して、その料理の文化や食材、職人の想いについて触れてもらう。単に真面目に考えるだけじゃなく、食事を通してみんなに楽しんでもらう。食べることの喜びを伝えたい、感じてもらいたい。」と話しました。船越さんが作った料理の写真には、たくさんの笑顔も写っていました。
<授業2>
●「食することによって想起される無数のストーリー」(僧侶:花岡尚樹さん)
花岡尚樹さんは、浄土真宗本願寺派が運営する「あそかビハーラ病院」で働いています。この施設は、緩和ケアの病院で、入院される方は、治る見込みがない人たちです。年間150名ほど亡くなっており、入院期間は平均25日ぐらいだと話しました。このような現場で、花岡さんは、「最後に食べたいものは何ですか?」と患者さんに問いかけると、あまり高級な食材が出てくることは少ないと言います。むしろ、日常の些細なもの、昔の物語を思い出すようなものを食べたいと答える人が多く、ある入院患者さんは「サバ缶を食べたい」と答えたそうです。「なぜですか?」と聞くと、その方は、「昔貧しかった頃、お母さんがサバ缶で作ってくれた料理の味が忘れられない。サバ缶を通してお母さんのことを思い出したり、昔苦労した頃を思い出したり、食卓を囲んだ風景などを思い出しながらサバ缶を食べたい」と話したそうです。花岡さんは、「食事は、単に栄養素だけでなく、もっと色んなストーリーを含んでいる」と伝えました。
<授業3>
●「伝統と革新」(嬉野茶生産者ユニット:嬉野茶時)
嬉野茶時は、佐賀嬉野の土地で継承されてきた歴史的伝統文化である、嬉野茶・肥前吉田焼・温泉を、伝統を重んじ時代にあわせた新しい切り口で伝えています。肥前吉田焼の茶道具をつかって淹れられた美味しいお茶と、嬉野のお菓子を味わいました。
●願正寺ツアー(熊谷ご住職)
1600(慶長5)年に鍋島藩によって建立されたお寺。1883(明治16)年の佐賀県臨時県会が願正寺で開かれ、1886(明治19)年まで県会が開かれたそうです。また、佐賀市にある浄土真宗本願寺派の関係学校である佐賀龍谷学園の前身である「振風教校」は願正寺の中に設立されました。現在も、毎年12月16日は全校生徒が参拝するそうです。
●鼎談(林口砂里・船越雅代・嬉野茶時・花岡尚樹)
授業の後は、エピファニーワークスの林口砂里さんが司会を務め、先生方の鼎談が行われ、「食とは?」という問いを深めていきました。
以上